葛藤を乗り越え、二郎の味を盛岡へ
あっさりとした醤油ラーメンが好まれる盛岡に、規格外のラーメンがあらわれたのは今から3年前のことだ。
ラーメン二郎。その名を聞いたことがある人も少なくないかもしれない。極太の麺に山盛りの野菜。「豚」と呼ばれる分厚いチャーシュー。スープはタレといっていいほど濃い。インパクトがあり、かなりのボリュームに圧倒される。関東を中心に人気を集め、直系の店やインスパイア(触発された)系の店が全国に広がっている。
「踊ろうサンダーバード」は、二郎インスパイア系の店だ。店長を務めるのは、奥州市出身の及川祥平さん。秋田市で二郎系「ラーメンマシンガン」を出店した杉宮卓也オーナーと友人の紹介で知り合う。
及川さんは盛岡調理師専門学校を卒業し一度は調理の道に進んだものの、1年で退社。調理から離れ、工業関連の会社で働いていた。7年が経つ頃、突然ラーメン店の話が舞い込んでくる。周囲からは反対されたが、及川さんは覚悟ができていた。3年は何があってもやってみよう。それでだめなら別の仕事に就けばいい。杉宮さんと一緒に盛岡での新店オープンに向けて動き出した。最初は秋田の一号店で修業。二郎のラーメンは、それまで食べたことがなかった。
想像を超える、二郎の衝撃
「秋田の『ラーメンマシンガン』で最初に食べたときは衝撃でしたね。この麺の太さやしょっぱさが岩手の人に受け入れられるのか不安でした。でも、店内は満席で皆夢中で食べているし、大丈夫だと思いました」
実際にオープンしてみると、ラーメン好きたちが続々と訪れ、出だしは好調。だが、その状況は続かなかった。
「気に入る方と嫌いだという方が、はっきり分かれていました。お客さんの入りが日によって極端で、少ないときには十数人というときもありました」
多少好き嫌いが分かれるのは承知の上。ファンになってくれる人だけが来てくれればいい。そんな思いもあった。しかし、及川さんは秋田と盛岡の決定的な違いに気づく。
「秋田では、塩辛さや味が濃いめを好む傾向がありました。その一方、盛岡ではダシの味がわかるくらいの濃さが好まれます。地域性の違いを無視できないと思いました」
根付かせるための葛藤
できることならば、このままの味を貫きたい。だが、ほとんど手をつけないまま残されることが一度や二度ではなかった。それを捨てるのが本当に心苦しかった。及川さんは杉宮さんと相談しながら、調整を繰り返した。スープの濃度を少し下げ、背脂の量は選択できるように工夫。麺の太さは少しゆるやかに。加水率を若干上げたことで、以前よりもなめらかでモチモチとした食感に仕上がった。
どの調整もほんの少しずつ。何度も何度も繰り返した。岩手の人たちが好きな味に合わせるのなら、大幅に変えればよい。だが、二人はそうはしなかった。この味を理解してもらいたい。そのために最適な着地点を探した。味を「合わせる」のではなく「馴染ませる」という言い方が近いかもしれない。
半年近く調整を重ね、オープンから1年で客足が安定するようになった。店内には大学生らしき男性の姿が目立つ。最近はサラリーマンや女性も増えたという。
「今は手応えを感じています。でも、ずっと同じようにつくっていても、現在の人数の壁を超えられない。現状維持ではなく、攻めの姿勢で取り組みたいと思っています」
店のこだわりと客のニーズ、そのはざ間での葛藤が、盛岡に新たなラーメンを根付かせた。さらに、2015年には北上市に系列店「バードメン」を出店。及川さんは現在、この店の厨房に立っている。
(店情報)
住 所 盛岡市館向町3-6 太陽リーハA棟1-C
電 話 無
営業時間 11:30~15:00、18:00~21:00
定休日 不定
駐車場 4台
代 表 及川祥平
(メニュー)
しょうゆ並盛 700円
みそ並盛 800円