【麺の極 はなみち】若者のニーズを掴む、生粋のラーメン職人

とあるテレビ番組で、シンガーソングライターの椎名林檎がこんなことを話していた。

「自分はアーティストではなくJPOP職人。作品と私の本当に好きな音楽は乖離しているから」

「麺の極 はなみち」店主、小泉大輔さんを取材する中で、この話を思い出した。

同店の近くには岩手大学がある。ターゲットにするのは食欲旺盛な学生たち。

周囲には、ニンニクが効いていてボリューム満点な二郎系ラーメンの「踊ろうサンダーバード」と「豪―めん」、こってり濃厚な「天下一品」がある。

小泉さんはこれらの店のファンの中間層を意識してラーメンを作った。

個性を出し過ぎない

スープは豚骨・鶏ガラ・モミジなど動物系がメイン。骨が砕けるまで煮込み、白濁していて濃厚なのだが、驚くほど臭みがない。

小泉さんが行っているのは、「マスキング」という調理法。

食材と食材の掛け合わせることで、旨味を残しながら臭みだけを取り除く。

動物系のスープに加えるのは、大量の香味野菜。かたちがなくなるまで煮込んだ野菜は、甘味が溶け出すのと同時に臭みを消し去ってくれる。

最後にはスープをしっかりと濾す。

煮込んだ具材がペースト状になるためなかなか網を通らず、力仕事な上に時間がかかる。

だが、小泉さんは手間を惜しまず4回も濾す。そのため舌触りがとてもクリーミーに仕上がる。

二郎系、こってり系好きの中間層を狙った試みは他にもある。

甘みのあるタレと、完成間際に加えるニンニクだ。例えるなら、テリヤキのような甘じょっぱさ。そしてニンニクが入ることでインパクトと後引く味わいを生み出している。

周囲の店ほどの個性は出さず、しかし「ニンニク」や「こってり」といった要素を感じる。店主の味づくりのバランス感覚の良さが光る。

いつかは勝負の一杯を

物心がついた頃からラーメンが好きだった小泉さんは、大学進学で上京するとき、色々なラーメンが食べられることを楽しみにしていた。

食べ歩きをする中で出会ったのが、「節骨麺たいぞう」という濃厚な魚介豚骨のラーメン店。

当時の味に惚れ込み、作る側に回ることに。店長として新店の立ち上げにも携わった。

26歳のとき盛岡に帰郷。焼き肉店や居酒屋で働いたが、頭の片隅にはいつもラーメンがあった。

自分で店を出そう。帰郷から1年後、「はなみち」をオープンする。

最初は目立った告知をせず、人通りも少ない場所だったため客数が伸びなかった。

そんなときアイデアをくれたのは父だった。

小泉さんの父親は精肉店兼弁当店を営んでいる。そこで作っている唐揚げをランチタイムに無料で提供してはどうか。

試してみると、お客さんに大変喜ばれ、口コミで話題に。ラーメンの美味しさを知ってもらう機会にもなり、リピーター獲得につながった。

研究熱心で、スープの改良に余念がない小泉さん。以前の味にこだわらず、現在も進化を続けている。

「今はラーメンを作っていられるだけで幸せ。でもいつかは、この一杯で勝負できるというラーメンが作れたらいいですね」

最新作は、ニンニクを焦がしたマー油入りのラーメン。これからどんな進化を遂げるのか。目が離せない。


店鋪情報

麺の極 はなみち

住所 盛岡市前九年2-1-7
営業時間 11:00~15:00、18:00~23:00
休日 火曜
駐車場 20台

メニュー

ら~麺 豚・黒 850円
ら~麺 豚 730円他

この記事を書いた人

丘森 響オカモリ ヒビキ

岩手県盛岡市在住。岩手まるごとガイド編集長。 フリーライターのほか、飲食店向けのレシピ開発やアライアンス等のコンサルタントとしても活動中。

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