【拉麺たいぢ】ひらめきがラーメンの可能性を広げる

ひらめきがラーメンの可能性を広げる

ラーメンには、型にとらわれない面白さがある。

例えば、豚汁に麺を入れたのがはじまりといわれる味噌ラーメンや、賄いとして麺をざる蕎麦のようにスープに浸して食べたことから生まれたつけ麺など。

今では当たり前になっているメニューも、登場したばかりの頃は異色としてみられる。それでも貫き通すには、かなりの勇気が必要だ。

「拉麺太极(たいぢ)」は、そんなラーメンの開拓に挑んだ店だ。開店したのは1996年。店主の橋本洋司さんは27歳だった。営業職や土木関係の仕事を経て、ラーメン店を開業した。

自分にしか出せない味を

最初は両親が営む大判焼きの店の傍らで、実験的にラーメンを出していた。
当時提供していたのは、豚骨スープのシンプルな醤油ラーメン。

試作を部活帰りの高校生たちに食べてもらうと、評判は上々。これなら勝負できると思った。
だが、ただ一人、兄が納得してくれない。

「自分にしか出せない味を提供しなければ、お客さんは満足しない」

橋本さんはスープの材料、作り方をゼロから考え直した。そのとき思いついたのが、素材単体で、化学調味料を使わない「無化調」でスープをとる方法だ。

「それまで、純粋に素材の味わいを感じるラーメンというのを食べたことがなかった。自分にしか出せない味は、これだと思いました」

素材の産地からダシの取り方まで試行錯誤を繰り返す。

ようやく納得のいく一杯「中華そば-煮干し-」と「中華そば-鶏-」が完成。「拉麺太极」はついにオープンする。

ところが、出来上がったスープを確かめて愕然とする。味が薄いのだ。

試作時は小さな寸胴でスープをとっていたが、本番は大きな寸胴。同じようにダシをとっても、味が出ない。
理想とする味にするには、想像以上の量を投入しなければならなかった。

大量の素材を使ってスープをつくるが、なかなか完売しない。

丹精込めてつくったスープを捨てるのがつらく、血尿が出るほど悩んだ。

それでも橋本さんは諦めずに続けた。きっとこの味をわかってくれるはず。時間はかかったが、口コミで評判が広がり、行列ができるほどの人気店になった。

結果、「拉麺太极」は、岩手の無化調ラーメンの先駆的な店として知られることとなる。

また、具材の極太のメンマも先駆けのひとつだ。乾燥状態から約1週間かけてじっくりと戻したメンマは、歯触りが抜群に良い。

移転後、さらに進化

開店から18年目の昨年、矢幅駅前から紫波町に移転した。

これを機に麺を一新。製麺機を購入し、自家製麺を始めた。

 

併せてスープも改良することになり、「中華そば-煮干し-」はまだ納得のいく味に仕上がっていないとのことで、残念ながら現在はメニューから外されている。

その代り、新メニュー「そば」が登場した。

 

鶏とゴボウでダシをとり、全粒粉入りの麺と合わせる。岩手の郷土料理「ひっつみ」のような味わいが郷愁を誘う。

従来の型にとらわれない橋本さんのラーメンは、いかにして生まれるのか?

「ひらめきですね。ラーメンに関して独学でしたので、技術がなかった分、ひらめきで勝負するしかないと思い、今までやってきました」

どんなラーメンが生み出されるのか、これからも楽しみだ。


店鋪情報

拉麺太极

住所 紫波郡紫波町高水寺稲村48-18
電話 019-672-4956
営業時間 11:30~15:00
休日 木曜
駐車場 8台

メニュー

そば(鶏ごぼう) 500円
魚ダシそば 650円他

 
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この記事を書いた人

丘森 響オカモリ ヒビキ

岩手県盛岡市在住。岩手まるごとガイド編集長。 フリーライターのほか、飲食店向けのレシピ開発やアライアンス等のコンサルタントとしても活動中。

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