【佐野家】幅広い客層に支持されるのには訳がある

「滝沢市で好きなラーメン店は?」

とたずねると、必ず名前が挙がるのが「佐野家」。サラリーマンに家族連れ、年配の方と、とにかくお客さんの幅が広い。

なぜ幅広い客層から支持を得ているのか。その理由は2つある。

ひとつはメニューのバランスの良さだ。看板ラーメンの「こくだれ醤油ラーメン」の他、麺類のメニュー数は7品。そのライナップが絶妙で、野菜をたっぷり食べたい人には「ネギ味噌ラーメン」、あっさりが食べたい人には「塩ラーメン」、こってりが食べたい人には「背脂豚骨醤油」といった感じ。何十種類と豊富にメニューを揃えている店はたくさんある。

だが、メニュー数が多過ぎても目移りしてしまう。佐野家はメニューを増やさない。味の好みを必要最小限に抑えているので、選ぶ側もほとんど迷わない。

もうひとつはスピード。調理は店主の佐野正博さんがほぼ一人でこなしているが、めっぽう早い。

「お客様が席に着いてから5分以内での提供を心掛けています」

時間に余裕のないサラリーマンや、小さな子供連れにとって、とてもありがたいポイントだ。

就職か、独立か?

佐野さんは高校卒業後、盛岡市内の中華食堂に就職。その店で34歳まで働く。麺類から定食、丼物までメニュー数が多く、ほとんどが中華鍋を振らなければならない。調理スピードはこの17年の間に培われた。

その店を退職後、佐野さんは他店への就職と独立、ふたつの選択肢で準備を進める。奥さんと滝沢市鵜飼のあたりを車で走っていたとき、現在の店舗の場所をみつけた。当時は更地だったが魅かれるものがあった。思い切って独立へ。佐野さんが36歳の時だった。

オープン当初、東京では「黒」「白」「紫」と名付け、醤油ラーメンだけを3種類提供し、人気を集めている店があった。

「醤油ラーメンの専門店をやってみたら?」

とアドバイスしてくれる人がいた。だが、奥さんがその案に反対した。

「味噌だって食べたいお客さんもいるし、担々麺が好きなお客さんもいる。その人たちの希望に添う店のほうがいい」

メニューの幅は広いが多過ぎない、現在のスタイルはここから始まった。

変えない勇気

ありそうでなかった絶妙なメニューラインナップは、お客さんの心を掴んだ。オープンして間もなく行列のできる店になる。すると、

「同じようなメニューのスタイルで店を開きたい」「真似させていただきます」

と言って実際に開店した店が何軒かあった。だが、繁盛するも調理が追い付かず店主がお手上げ状態になり、店を閉めてしまった。長年培われた調理技術があってこそ、佐野家のスタイルは完成するのだ。

今後について佐野さんは、「今の状態を続けていきたい」と言う。変える勇気もあるが、同様に変えない勇気もある。

「どこまでこだわるかのバランスが大事。こだわり過ぎても長続きしませんから」

朝4時に起床し、6時には車を走らせ店舗へ。職人気質の佐野さんは、今日もまた同じルーティンを黙々とこなす。


店鋪情報

佐野家

住所 滝沢市鵜飼八人打1-2
電話番号 019-687-6002
営業時間 11:00~16:00/17:30~21:00
休日 水曜
駐車場 14台

メニュー

コクだれ醤油ラーメン 600円
ネギ味噌ラーメン 780円

この記事を書いた人

丘森 響オカモリ ヒビキ

岩手県盛岡市在住。岩手まるごとガイド編集長。 フリーライターのほか、飲食店向けのレシピ開発やアライアンス等のコンサルタントとしても活動中。

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